見て、聞いて、感じた、
山の現状と地域の課題。
私たちが出来ること。

Column2022.11.22

02
MIRAI NOTE

Column

木と暮らす未来コラム

見て、聞いて、感じた、
山の現状と地域の課題。
私たちが出来ること。

Column2022.11.22

見て、聞いて、感じた、山の現状と地域の課題。私たちが出来ること。

私たちがアクションし始めたきっかけは様々な要因がありました。
今回はそのきっかけの1つと、木と暮らす未来プロジェクトが取り組む課題をわかりやすく表現するために、山主の目線で山の現状、地域の課題の一部を紹介します。

わたくしごと。森と向き合う。

さかのぼること2014年頃、私はとある材木事業を営む会社さんのリブランディング案件に関わり、その時初めて日本の山の現状とその地域の課題に向き合った。

それまで一般知識程度の林業や地方のイメージしかなかった私は、複雑に絡み合った大量の配線のようにほどけず繋がりもしないような膨大な課題に衝撃を受けた。

日本全国の企業や店舗、多岐にわたる業種に対し、クリエイティブの視点から課題解決を行っている私たちは無意識に地方の課題にも向き合ってきたこともあり、この現状にすーっと自分ゴト化することができた。
もともと北海道・東北の出で、地方にいくつか拠点を置いていたり地方を拠点とするパートナー企業がいることも相俟っていると思う。

そんな経緯もあり、環境保全の一助となるその使命感と膨大な課題に魅力と可能性を感じた。
私にとってクリエイティブが全て。
出来ることは限られているが、この視点で課題に向き合い、可能性を見いだして未来の価値を創出したい。

戦後の経済と環境を支えた
夢と希望の拡大造林政策だった

造林の話に触れるためには造林の歴史をお伝えしなければならない。この話はどこにでも掲載されているので、少々言葉足らずとなるが端的に書いた一般論として理解して欲しい。

私は材木の歴史を調べていた際に、森林整備の歴史は古く約500年前(室町時代)から記録されているという資料を目にした。本格的な建築木材需要の拡大と生活用、農業用、建築用等のための森林伐採が行われ、災害などの深刻化から、1666年に幕府が出発した「諸国山川掟」から本格的な造林事業が始まったそうだ。

時代背景から考えると治水や築城、建築、インフラ整備などが盛んに行われていた時代で、主要なエネルギー源でもあることを想像すると木材の需要はそれ相当だったのだろうと思う。

その後産業革命や明治維新によりさらなる需要の拡大、第二次世界大戦中の乱伐から戦後の復興にかけて大量の木材が消費された。荒廃した日本の国土を再生するべく政府が「拡大造林政策」を推し進め、現在約1,000万haの人工林となった。

森林面積に占める人工林の割合(森林面積 2,505万ha)

参考:林野庁サイト/スギ・ヒノキ林に関するデータ

これは日本の森林面積の約4割ということである。逆から捉えると約4割の木を人の手によって消費されていたと考えると圧倒的な数字である。

このあたりの話は、私が書くよりも正確詳しい情報が林野庁のサイトで掲載されていたので興味がある人は是非見て欲しい。

現代の山主さんたちが
抱える問題とネガティブサイクル

山(人工林)は、苗木を植えて伐採できるようになるまで育てるには、約50年の歳月と育林するために多くの費用を要するもの。山主さんは自分が植林した森を伐採するまで生存していない事がほんとんどで、個人レベルでは投じた費用を回収することができない。

たとえば30歳で植林したら約80歳で伐採期を迎えることになる。植林時期が40歳以上となるとほぼ回収は不可能となるので、子供や孫が相続して伐採することになる。まずこの育林タームが大きな問題である。

現在の伐採期を迎える50年生以上の森(人工林)は1950年代〜1970年代の戦後の復興〜高度経済成長期に植林されているが、約50年間しっかりと管理して育林している方が珍しい。管理されない理由は様々で例えば、

山主さんの悩み

2015年 木と暮らす未来プロジェクト調べ

木を売っても手元に対して残らない、都会暮らしの遠方で管理に困る、相続されたがどうしていいかわからない、育林費用が捻出出来ない、土地の境界線が曖昧で管理しにくい、高齢のため対応が難しい、そもそも所有者不明等など、理由を挙げたらきりがない。

たとえ伐採しても植林をする山主さんは2割にも満たないのが現状である。
さらに木の販売単価は輸入木材の影響で非常に安く、木を販売して得られる収入より植林して育成するための費用の方が高い。国からの補助金が無ければ大赤字だ。その補助金も国民の血税であることは忘れないでいただきたい。

これだけ話すともはやなんのための人工林なのか分からなくなってくる。他に問題は様々ありこの場では伝えきれないが、これが山主さんたちの現状なのである。

このような理由から植林・育林をする山主さんは非常に少なく、使える国産木材は減少し、植林しても育林されなければ木は育たず、場合によっては伐採すらされなくなってしまうというネガティブサイクルが生まれている。日本にとって、地球にとって憂慮すべき事態と言えるのはないだろうか。

「木と暮らす未来」の
言葉の中にイノベーションのヒントがある

地に光が届き、根が大地をを支え、動植物の共生と水源涵養を図った自然災害への配慮などを描いた美しい未来の森は夢物語だったのだろうかと思ってしまうが、戦後の日本が現代の世界経済や科学、技術の大きな進歩がいかに想像できただろうか。誰が悪いなんて当事者でもない私たちが一概に言えるものではないと私は思う。大切なのは未来である。無数の課題が見えているからこそだ。

森と人が共生する未来社会に、「暮らし」というワードを取り入れることで自分ゴト化する。私たちが行動し、点を線で結び、やがて輪になり広がっていく。「木と暮らす未来プロジェクト」は課題解決のソリューションであり、持続可能な造林サイクルのイノベーターでもある。

まずは森と人、企業を結ぶことから。この思考とスキームがグランドデザインとなり、社会価値・経済価値としてのあたりまえとなることが私たちが追求する未来価値である。このあたりの詳しい話は別の記事でお伝えていこうと思う。

editor’s voice

今回はわかりやすく山主の目線で問題点を紹介しましたが、あくまでこれは山主視点の一部の話。自治体や森林組合、地域林業、林業従事者、里山や農業従事者、地域住民など様々な視点からも無数の問題と課題があります。
これらも少しづつ書いていければと思います。


Text&Edit_Ryo Sato

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